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はっ は はぁっ はっ
もうどれくらいの時間、走り続けているのだろうか。喉の擦れるような痛み。心臓が握りつぶされるような苦しさ。この感覚はいつ以来だろうか。多分、昨年秋の持久走大会以来だ。それ以降まともに運動とかしてないし。
ゼェ ゼェ ヒュ ヒュッ
足がもつれる。視界が揺れる。それでも歩を前に進めるしかない。見慣れた学区内の光景、いつもの通学路が後ろへ後ろへ流れていく。無我夢中で走っているつもりだったが、無意識に安全を求めて自宅に向かっているらしい。
だがこの状況、背後から追ってくる「そいつ」は家に着いたところでどうにか出来そうもない。左手で握りしめた右の上腕に目をちらりと向ける。ダラダラダラと止めどなく赤いものが溢れ、今しがた通ってきたアスファルトに滴り落ちている。相当な量の出血。
嘘だろ、これ全部俺の体から出てんの?
見ただけで気持ち悪くなり、一瞬で目を逸らした。信じたくないが、経験したことのない激痛のために信じざるを得ない。血、流し過ぎて目がかすむとか、本当にあるんだ。マンガでしか見たことねぇよ。混乱した頭の隅はどこか冷静にそんなことを考えている。
厚いはずの学ランの袖は巨大な爪痕で呆気なく切り裂かれ、その下の皮膚に深い傷を残している。その爪痕の主が、後ろから迫っている。そいつが、こんなボロ雑巾みたいな体に鞭を打って走り続ける理由だ。どんな姿をしているのかを確認する前に一目散に逃げ出したから、何に追われているかすらわからない。野良犬?いや、犬でこの傷はない。熊?いやいや、周囲に山も動物園もないこんな住宅地に?
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