序・白昼夢の逃走

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ザッザッザッザ あれは足音なのか?何かを引きずる音?何にしろ、「そいつ」が俺に何をするのかは直感でわかる。 殺される。 その考えが頭を過った瞬間、ふらついた左足に右足が絡んだ。あえなく転倒。ボロ雑巾が地面に転がった。 「いっでぇ…!」 呻きながら、今度は芋虫のようにのたうち回る。 そんな情けない格好してる場合か?冷静な頭はそう呼びかけてくるが、身体はついてこない。眼球だけが、反射的に視界の端のものを捕らえた。 バケモノ としか表現のしようのないものが、そこにいる。上半身は裸の女、下半身は巨大な蛇。辛うじて人型とわかるのだが、腕の関節や首は生きている人間であれば有り得ない方向にひん曲がっている。そして腕の先には俺の腕を引き裂いた長い爪。これまた人間離れした獣のような形だ。 こんな化け物、正気で見たら恐怖で気絶してるに違いない。だが、あまりに絶望的な状況に立たされた俺は現在逃避のためか妙に冷静にそいつを観察していた。 こんなモンスター、今やってるRPGにも出てきてたな。まだ序盤だから遭遇してないけど、攻略サイトで見た。結構、レアリティ高かったはず。種族は、そう、ナーガとかいうドラゴンの一種だ。 能天気なことを考える。それとも、もう生き延びることを諦めて走馬灯でも見ているのだろうか。いやいや、走馬灯がゲームって。虚しすぎない? 長い髪を振り乱した女の顔は俺に焦点を合わせると耳まで裂けた口でにぃーっと笑った。 あ、俺、死ぬわ。 その直感は正しかったらしく、蛇の形をした下半身が大きくうねり、巨大な尾の先が振り上げられた。そのまま振り下ろして、圧死させる気だ。 なんだよ、俺が何したって言うんだよ。畜生、俺まだ15だぞ。死にたくねぇよ。 死に対して恐怖を通り越し、冷静も通過して、悔しさがこみ上げる。畜生、畜生、畜生、誰のせいで俺がこんな目に遭ってんだ。 悔し涙で視界がぼやけかかったとき、尾が振り下ろされた。 ああ、せめて苦しくないように一発で殺してくれ。 そう祈りながら俺は目を閉ざした。 瞼同士が触れ合う刹那、視界に何か黒いものが映り、俺と化け物の間に割り込んできた。 それを認知するかしないかのうちに俺は意識を失った。
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