第1章・捨て◯◯◯

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得体の知れないバケモノに襲撃される10時間前、飯塚 結生(いいづか ゆうせい)の一日はいつも通り始まった。 5月の薫風は非常に心地よく、健全な15歳男子の惰眠を助長する。 枕元に充電ケーブルで繋がれた携帯電話が3回目のアラームを鳴らした。時刻は午前7時15分。 それがいつもの合図だ。 ああ、今日も忌々しい奴らが来る。 バタン! 寝室の部屋が勢いよく開く。 大型犬が2匹、それに率いられるように4匹の小型犬が颯爽と俺のローベッドに駆け寄っていくる。皆千切れんばかりにフサフサとした尾を振り、フローリングを蹴る足の爪はチャカチャカと忙しない。 そして合計6匹の犬は一斉にこちらの顔、足、脇などに鼻先を押し付け、舐めまくる。 「あー!わかってる、起きる、起きるから!」 頬を舐める大型犬の一匹、白い方を腕で押しのけながら上半身を起こした。犬たちは慣れた様子でまた一斉に寝坊少年から離れ、楽しそうに部屋から出て行った。まるで鬼ごっこでもするかのように、そのまま階段を駆け降りる。 「最悪...。」 犬の涎でべっとりとした顔を触りながら悪態をつく。臭い、早く顔洗わないと、わかっていても、昨晩深夜までゲームで酷使した脳は言うことを聞かず、また瞼を降しかけた。 それを予見していたかのように、部屋の入り口では先程の小型犬のうち一匹、黒い塊のような長毛種が待ち伏せている。俺がまた横になろうものなら、飛びかかる気なのだ。薄眼の端でそれを捉えた俺はしっしっと手を振って追い払う。 起きる、起きてるから早く行け。 黒い塊は「本当か?」と訝るような目でこちらを見ながらも階段を降りて行った。 今日も最悪の目覚めだ。
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