それぞれの日課

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それぞれの日課

山間の村に92才のお婆さんが一人で暮らしていた。 彼女は毎朝3時に目を覚ます。 一時間布団の中で時を過ごし、4時頃起き上がる。 足元を確認するように一歩一歩慎重に足を運んで身支度を整え、粗末な朝ごはんをゆっくりと食べ終えると縁側に座る。 新聞配達を待つのだ。 新聞配達員に、 「おはようございます。 ご苦労さま。」 そう言うと、縁側で新聞に目を通す。 二人の子供やその子供である孫たち、そのまた子供であるひ孫たちが住む地域に異常がないか、もしかしたら子や孫やひ孫が新聞に載っていないか確認する。 その他はざっと目を通し、最後にお悔やみ欄をチェックする。 新聞を読み終えると散歩に出る。 小高い丘に腰を下ろすと、そこに一時間じっとしている。 一日に3回しか来ないバスを見ているのだ。 バスに乗るつもりはない。 誰か、子や孫やひ孫が来ないか見ている。 今まで何年もここでバスを見ているが、子や孫やひ孫がバスから降りて来た試しはない。 そんな事は本人だってわかっている。 いつもこっちへ来る時は車で来るし、来る前には電話をよこす。 だけど毎日バスを待つのは子や孫やひ孫が来るかもしれないと思う事で、昔の想い出に浸るためだ。 7時のバスを見送ると、一度家に帰る。 縁側で郵便配達を待つが、最近は郵便もあまり来ない。 11時をすぎる頃、昼食の用意をしてご飯を食べる。 食べ終わると、小さなおにぎりを持ってまたバスの見える丘へ行く。 お婆さんが丘に座ると、一羽のカラスが近寄ってくる。 お婆さんはカラスの姿を見るなり、小さなおにぎりをちぎってカラスに投げる。 このカラスは最近お婆さんと一緒にバスを待っている。 言葉こそ交わさないが、婆さんは友だちだと思っている。 1時のバスを見送ると、天気のいい日はその場でうたた寝をする。 その間カラスはずっとお婆さんのそばにいる。 今となってはお婆さんの友達はこのカラスだけになってしまった。 みんな一足先に天国へ行ったり、子供と同居するために引っ越して行ったからだ。
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