ツク

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 「井川さん、時間きたらあがってもいいよー。お疲れさーん。次の夜勤は来週だけど、まあ、ヨロシク」 **  ツイてたのは、誰だろう。  Aさんに決まってる。だって、Aさんはもう三年もツキのバトンを保有している。そう簡単に、他にバトンが渡るもんか。    ましてや、まだ仕事を始めたばかりのわたしに。  わたしは、夜とは違って賑やかなホールを見回した。利用者たちは元気にけんかをしたり、歌ったり、テレビを見たりしている。  日勤の職員がコーヒーを利用者に配っており、わたしに気づいて、「お疲れ様でしたー」と、言った。  帰ろう。そして休もう。熱いシャワーを浴びたい。  ホールを去る寸前、あの壁時計が目に入る。こちこちと穏やかに時を刻む、壁時計。針が逆回転したのは気のせいだ。  「次の夜勤の時は、ワタシをヨロシクたのむよ」  しわがれた細い声が、どこからともなく聞こえてきたのも。  全部、疲れているせいだ。
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