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「まあ、井川さん来たばかりだからまだ聞いてないと思うけどさ。ウチって、なんか持ち回りでツクのよ」
はあ、と、わたしは返す。一体なんのことか。
「要するに、夜勤の時に誰かが亡くなるってことねー。ここ三年くらい、わたしに回ってきたまま止まっててねえ。あは」
Aさんは軽く笑う。
「だからねえ、今夜あたり、危ないんじゃないかって、多分みんな思ってるはずだよー」
危ない。今夜あたり。
まだピンとこなくて、わたしは茫然とする。
特養に来てまだ一か月、利用者が亡くなったところに居合わせたことがまだない。特に夜勤の時に亡くなった場合、どこに連絡するか、どういう手順で動くかを、何度も頭で繰り返して復習するほど、その件については不慣れである。
特養勤めが長いと、関わって来た利用者が亡くなることなど、数えきれないほどあるのだろう。Aさんは物慣れた様子で「危ない」と言った。
でも、さっきAさんが見に行った利用者は、呼吸の乱れもなかった。いつもと変わらない様子だったと思う。夕食もいつも通り、少し摂取した。特にむせもない。
(ただの迷信だろう)
と、わたしは思う。
けれどAさんは、「まあ、しょっぱなからアタルのも、勉強になっていいもんかもしれないねー」と、目を細めるのだった。
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