四章:私を忘れないで

35/37
53人が本棚に入れています
本棚に追加
/194ページ
 上野先輩は「分かりました」と返事をすると、彩夢は『和儀、お願い』と僕に言ってきた。僕はリュックから手紙を取り出して上野先輩に渡した。  上野先輩はすぐに手紙を開いて読む。すると、口を手で覆い、「彩夢さん……」と彩夢を見た。 「良いのですか? これをしてしまったらあなたが」 『私の事は気にしないで下さい。もう私は死んでいるわけですから。理恵先輩が決断してくれれば和儀も幸せなはずです』  僕は首を傾げる。僕も幸せなはずってどういうことだろう? そう思っていると上野先輩が僕に向き直った。 「大田君、ここで私があなたを好きだと告白したら困りますか?」 「こ、告白!? いきなり、どうして」 『私が手紙に書いたのよ。私の事は気にしないで告白してくださいって』  彩夢の言葉に僕は「だから、どうして!?」と立ち上がって訴えた。   「僕には彩夢がいる! それなのに」 『その気持ちを持ってくれるのはとっても嬉しい。でも、それじゃあ和儀が幸せになれない。だから和儀の想いに素直になって』  僕はうろたえる。どうしたらいいのか。上野先輩は顔を伏せて僕が座ることを待っている。賢人や愛夢ちゃんを見ても何も言ってくれない。  僕の顔は火照っているから真っ赤になっているのだろう。『正直になって』と彩夢の言葉が頭に響く。僕は静かに椅子に座った。     
/194ページ

最初のコメントを投稿しよう!