一章:さようなら……じゃないの?

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『――きなさい』  まどろむ意識の中で声が聞こえる。それは聞き覚えがある声。 『和儀――』  自分に言われているものだと分かったが、眠気が勝り、再び夢の世界へと戻ろうとした時、その声はハッキリと言い切った。 『起きなさい! 和儀!』  その声に僕は飛び起きる。明らかに彩夢の声だったのである。しかし、周りを見渡してみても目に入るのは捨てていないゴミ袋や、散らかった教材、据え置きのゲームなどしか無かった。 「夢でも、見ていたのかな」 『夢なんかじゃないわ!』  ハッキリと彩夢の声がする。僕は「彩夢!? どこにいるの!?」と彩夢を探すが当然彩夢の姿は見当たらない。 『ここよ! 和儀、下、下!』  声は足元から聞こえてくる。そしてお腹の上で何かがジャンプしているような感覚もある。僕は恐る恐るお腹の上を見る。  そこには彩夢からプレゼントされて、リュックにつけていたはずのストラップサイズのクマの人形がジャンプしていた。 「な、え!? に、人形が動いてる!? 喋ってる!?」  僕は布団から飛び出て玄関まで逃げてクマの人形から離れる。クマの人形は僕の膝に当たった拍子に空を舞い、フローリングに叩きつけられた。     
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