一章:さようなら……じゃないの?

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『いった……和儀、何するのよ!?』 「ゆ、幽霊か何か!? お、お願い、賢人(けんと)出て……!」  僕はポケットに入っていたスマートフォンで友人の賢人に電話をかける。すると、クマの人形は歩いて来ながら『和儀、私よ!わ・た・し!』と言ってくる。僕はさらに恐怖を覚えてスマホにすがるが 『お留守番サービスに接続します』  無情にもお留守番サービスに繋がってしまった。よく考えればこんな朝から美大に通っている賢人に繋がるわけがない。  そこで僕は震える手のまま上野(かみの)先輩に電話をかける。だが、その間にクマの人形は玄関まで来ていて、声を荒げた。 『話を聞きなさいって! 私よ! 彩夢よ!』  クマの人形の言い分に僕は「あ、彩夢は死んでる! 一ヶ月前に」と言った時点で気付いた。 「え、彩夢? でも、彩夢は死んで……え、幽霊?」 『そうよ、私は彩夢。どういうわけかこの人形に憑りついちゃったの』  クマの人形は仁王立ちでハッキリと彩夢を名乗る。僕は訳が分からず、瞬きを繰り返していると、電話が上野先輩に繋がり『大田君? どうしましたか?』と手元から声が微かに聞こえてくる。     
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