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五章:前を向きなさい
上野先輩が留学した10月。僕は結局答えを出せないまま上野先輩は留学してしまった。
LINEで連絡は取れるからいつでも答えは出せるけれど、それは失礼にも程がある。でも、彩夢はこの事でもの凄く怒っていた。
「彩夢、じっくり考えさせてよ。なにも断るとは言ってないでしょ?」
『一ヶ月も考えて言う事? ほぼ断ると言っているようなものじゃない』
僕は何も返せなかった。彩夢の言う通りであると思うからだ。でも、きちんと答えを出さないといけないとも思う。
答えが出せない理由は分かっていると言えば分かっている。でも、それは解決してほしくない事でもある。その理由は――。
思っていると携帯が鳴る。相手を見ると林田先生からだった。すぐに僕は電話に出る。
「林田先生? どうしましたか?」
『おお、大田君。春以来だな。前に君が話した怪奇現象だが、信じることにしたよ』
「本当ですか!? でも、どうして」
『崎重さんの妹の時に井坂君がそれらしい事を言っておったからな。それに、君が?をつくとは思えん。少し話があるのだが、崎重さんと家まで来てもらえんかね?』
「大丈夫ですけれど……家まで来るようにって事は何かあったんですか?」
『実は相談したい事があってな。詳しいことは来てから話そう』
僕は「分かりました」と返事をして電話を切った。そして出かける準備をしていると、彩夢が『どこか行くの?』と聞いてきた。
「林田先生の家に行くよ。彩夢の事を信じてくれるって。それで相談したい事があるらしいからそれも聞こうと思って」
『信じてくれるの? 前は怪奇現象なんて信じないって言ってたじゃない』
「賢人といろいろ話して信じることにしたって。とりあえず行ってみようよ」
彩夢は大きくため息を吐きながらリカちゃんハウスから出る。僕は少し苛立ちを覚えて口を尖らせる。
「じっくり考えさせてって。大切な事だからじっくり考えてるんだよ?」
『うじうじしてるだけじゃない。まあ、林田先生は悪くないから行くけど』
言い終えると彩夢はリュックのサイドポケットに入る。
僕は何か言い返そうと思ったが、言い負かされると考えて止めた。とりあえず林田先生の家に行って、相談事を聞いて来よう。
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