十秒ルール

2/10
前へ
/339ページ
次へ
 今日一日は、勤めて不機嫌なふりをし続け、てめえら話しかけるなオーラを力いっぱい漂わせていた。おかげで、庶務課はいつも以上にしいんとしており、ごくんと誰かがつばを飲む音まで聞こえてくる始末だった。  最も、そんな中でも後藤さんだけは、隙を見てはスマホをいじってニタニタしていたが……。  (ばれてないって思っているのか、わざと見せびらかしているのか)  ちらちらと、下品な程におおぶりなダイヤの指輪が視界のはしを過る度、ちょっと気が散った。  沢崎君からのエンゲージリングなんだろうけれど、そんなでっかい石のついた指輪を職場に着けてくるなよ。  おそらく、庶務課の女子はみんな同じことを思っているのだろう。  「コーヒー、入れてきまーす」と、昼休憩から戻った後、今日の当番の子が給湯室からみんなのぶんのコーヒーを淹れてきてくれるけれど、それを下げて洗いに行く際、ちらっと言ったのだった。  「洗い物してきまーす。あ、いいですいいです、わたしがやりますから」  いいよ、みんな自分のは自分で洗うから、と、言う女子が何人かいるのだが、それに対し、彼女はこう返したのだった。  「貴重品のアクセサリーをつけた指では、マグカップも洗えないじゃないですかあ」  明らかに、後藤さんに対するあてつけだったが、気づいていないのは本人だけだ。     
/339ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加