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汚い机で頬杖を突きながら、ふんふん鼻歌でも歌いそうな様子で、膝の上でスマホをいじっている……。
くすくす、そうね、ダイヤが取れたら大変だもんねえ。
ほんっと……。
さざなみのような囁き声。
今、後藤亜里沙に対して寄せられる視線は、蔑視でも悪意でも嘲笑でもなく、ただただ冷視なのだった。
本人はしかし、その視線や囁き声をどう取っているのか、いっそうにたにたするだけである。
言葉が通じないとはこういうことであろう。
(ふふ、みんなわたしたちのことを羨んでいるのよ……)
後藤さんの思考が、ひょいと流れ込んできた気がした。
勘違い、思い上がり、思い込み――ぶるるっと身震いがくる。
後藤さんがどんどん、イタイ方向に流れている。
一方、八代さんは青ざめてやつれた顔で、無言でパソコンに向かっているのだった。
その眼には涙はなかったが、微かに眉が寄っている。
八代さんは、この理解不能な事態を、ようやく受け入れ始めている頃だろう。元気は全くなかったし、まだまだ立ち直ることはできないだろうけれど、様子は落ち着いていた。
仕事は仕事、と、割り切っている感じもある。
(この子、きっついわー)
後藤さんとはまた別の怖さがあった。
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