十秒ルール

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 汚い机で頬杖を突きながら、ふんふん鼻歌でも歌いそうな様子で、膝の上でスマホをいじっている……。  くすくす、そうね、ダイヤが取れたら大変だもんねえ。  ほんっと……。  さざなみのような囁き声。  今、後藤亜里沙に対して寄せられる視線は、蔑視でも悪意でも嘲笑でもなく、ただただ冷視なのだった。  本人はしかし、その視線や囁き声をどう取っているのか、いっそうにたにたするだけである。  言葉が通じないとはこういうことであろう。  (ふふ、みんなわたしたちのことを羨んでいるのよ……)  後藤さんの思考が、ひょいと流れ込んできた気がした。  勘違い、思い上がり、思い込み――ぶるるっと身震いがくる。  後藤さんがどんどん、イタイ方向に流れている。  一方、八代さんは青ざめてやつれた顔で、無言でパソコンに向かっているのだった。  その眼には涙はなかったが、微かに眉が寄っている。  八代さんは、この理解不能な事態を、ようやく受け入れ始めている頃だろう。元気は全くなかったし、まだまだ立ち直ることはできないだろうけれど、様子は落ち着いていた。  仕事は仕事、と、割り切っている感じもある。  (この子、きっついわー)  後藤さんとはまた別の怖さがあった。     
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