48人が本棚に入れています
本棚に追加
かちゃかちゃと当番の子がみんなのマグカップをお盆に集めている。けっこうな量だぞ。
わたしは立ちあがりかけたが、ゆさっと胸が躍ったのであきらめた。駄目だ、手伝いにはいけない。
「あ、じゃあ、わたしも手伝って一緒に洗ってきます。チーフ、行ってきます」
と、みかねた一人が立ち上がって、二人で洗い物に行ってしまった。仲良し同士である、目を見合わせて出て行った。
たぶん、給湯室でいろいろ喋るんだろうな。
後藤さんのこととか。いろいろ。
**
終業と同時に逃げるように更衣室に駆け込み、他の人が着替えに入ってくる前に、マッハの速度で私服に着替えた。
ハイネックセーターとスラックスだけど、ぱっつんぱっつんなんだよ、油断していると、縫い目から避けてしまうだろう。ぞっとしない。何事も起こらないうちに、とっとと帰るぜ。
「あ、黒山田チーフ、あの」
廊下に出て、階段を駆け下りようとした時、背後から八代さんが呼びかけた。
何を言いたかったのか分からないが、今日の所は申し訳ないが、話を聞いている余裕はない。聞こえないふりをして、だだだだだと駆け下りる。
ワザワイ株式会社に入社以来、はじめてじゃないか。
終業と同時に退社するなんざ!
エントランスから外の通路へ。
最初のコメントを投稿しよう!