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なんだか空模様があやしい。夕暮れ時の冷たい風が道にふきつけ、街路樹の裸の枝が、細かく震えている。
空は暗い赤色に染まり、なんとなく不吉なのだった。
部活帰りだろう、ガクラン姿の集団が自転車をこぎ、賑やかに通り過ぎていった。そのすぐ側を、クラクションを鳴らしながらトラックがすれ違ってゆく。
ぶぶぶう、と、排気ガスが顔に当たる。
会社から出れば安心と、ちょっと油断していた。
しばらく小走りだったが、やがてわたしは歩調を緩めた。息が切れかけていたのもある。
齢40歳、ちょっと運動しても息があがらぁ。まさかこれくらいで、筋肉痛にはならんだろうな?
てくてくと歩いていた。
通りには店が立ち並び、女子高生たちがクレープを食べながら歩いていたり、雑貨屋に群がっている様が見られる。そうか、今日はいつもより若干早い時間の帰宅だから、ちょっと賑やかしいんだな。
「黒山田さんじゃないですか」
ふはっふはっふはっ……。
呼び止められて反射的に振り向いた。腰が抜けかける。本当にすぐ背後、振り向いた顔に息が当たるくらいの至近距離に、奴は立っていたのだった。
白鈴木クリニックのでぶドクターじゃないか。
もちろん白衣ではない。なんか、青と黒のタータンチェックのネルシャツに、ぶっかぶかのズボンをはいている。
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