十秒ルール

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 高級志向の店らしい。だけど、どこかお洒落だ。流れている音楽もガーリーな感じだし――ぐるっと見回した――ぽつぽつとお客が座っていて、だいたい若い女性客だった。  結構大きな店だ。  カウンターの奥から、マスターらしい背の高い人が穏やかにこちらを見ていた。  カッターシャツを着て、黒いエプロンをしめている。  ふわっとした自然な髪はふっさりとしている。年のころはわたしより少し上くらいか。すらっとした体格だけど、うでまくりした腕は引き締まり、まことに良い感じなのだった。  どうぞ、カウンターは空いていますよとマスターは深みのある声で言った。  なぜか狼狽えながら、わたしはもたもたとカウンター席に座る。  「ブラックコーヒーを」  と、わたしは切れかけた息の下で言い、マスターとなんとなく目があった。  ブルータス、お前もか。  マスターは、黒い瞳に意味深な光をたぎらせ、わたしを真正面から凝視していたのである。  魔法だ、また魔法が作用している。  思い出した。  眠りに入る寸前、ちゅっと顔に何かがかかったではないか?  ほうきの奴、あれだけ脅したにも関らず、また件の化粧水を噴きかけやがった……。  (え、あ、あらやだっ、な、なんのことかしらっ、マコわかんなーい)  ほうきのテレパシーが飛んでくる。     
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