十秒ルール

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 どうでもいいが、なんでどもってるんだ、早口なんだ、不自然に語尾が震えてるんだよ、ほうき。  それにしても。  (確かに良い男である)  永遠に閉じ込められてしまいそうな見つめあいの刹那の時間で、わたしは凄まじい勢いであれこれ考えた。辛うじて視線は逸らす。大丈夫だ10秒も凝視していない。  (見た目良し)  (店は繁盛している、良し)  (左手の薬指に指輪なし、良し)  (いやいやいやいや、なんでそうなるかっ)  ブラックコーヒーだね、今日はじめてでしたっけ、と、ちょっと砕けたふうにマスターは言った。  カウンターの奥はカップが並んだ棚になっていて、その棚の飾りスペースには、店を訪れた有名人たちのサイン色紙が飾られている。  「カフェ・ホワイトマウンテン様へ」  軽食も取れる店なんだろう。  席には、割りばしやソースなどが乗ったターンテーブルが置かれていて、その中に店の名刺が入っていた。  カフェ・ホワイトマウンテン 店主 白山本かおる  化粧水は、男を引き寄せる効果があるけれど、でも、自分に見合うレベルの人しか寄ってこないものなのよー 。  (今のわたしに見合うレベルの人)  峰不二子とイエティとロッテンマイヤーの合成獣と見合うレベルの男が、普通の人であるわけがないのであった。
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