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つまり、みんな、できれば目を背けていたいようなことだった。
魔女になるなんて。
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18時を過ぎ、オフィスを引き上げつつ、溜息をつく。
パンプスに押し込んだ足はむくんでパンパンだ。年を取るってヤなものだ。
自社ビルのエントランスを出る時、ふわっと華やかな香りを漂わせ、かつかつ軽快な足取りで、八代さんが駆けて行った。
ゆるふわパーマで、薄紫のコートを着て、ほんとに綺麗。
通り過ぎざま「お疲れ様です」と、そつなく頭をさげて行った。
同じ課の中堅どころだけど、八代さんが結婚間近であることは誰もが知っていた。
営業部のエース、沢崎君とつきあっていて、夏ごろにプロポーズされたらしい。来春に結婚するということで、寿退社が確定していた。
自動ドアの向こうの、明るい夜の中に八代さんは飛び込んで消えた。
今からデートなんだろうな。明日は休みだし、お楽しみだ。
(いやいやいや、わたしだって楽しんじゃうんだもんね)
不敵な笑いがこみあげてきた。
おうよ。今日はやったる。
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