48人が本棚に入れています
本棚に追加
どろどろの物凄い格好で、清潔極まりないお洒落なケーキ店に入る。
ちりんちりーん。
クリスマス間近の店内はデコレーションが美しい。
サンタ姿の売り子がこちらを見て一瞬固まった。
予約していた黒山田だと言うと、奥から誠に可愛らしいデコレーションケーキを持ってきてくれる。
真っ白な生クリームに、ピンクのバラがいっぱい飾られて、にこにこ笑っているうさぎちゃんがいた。
「ハッピーバースデーあいちゃん」と、チョコレートに書いてある。
これでよろしいですかと聞かれたので、結構ですと答えた。
箱におさめてくれ、勘定を払う。
売り子のおねえちゃんは笑顔をはりつけて、義務のように聞いた。
「お子様のお年を伺っていなかったのですが、蝋燭はいくつつけますか」
ジングルベルジングルベル鈴がなる。
楽しい音楽が店内には流れていて、学校帰りらしい女子高生二人連れがケーキを選んでいる。
きゃいきゃい、きゃいきゃい……。
わたしは静かにおねえちゃんを見つめた。
眼鏡の奥のまなこ。
庶務課の鬼局の黒山田に睨まれたら石になる――そんな陰口を叩く奴がいるくらいの、まなこだ。
「40本」
平たい声で、わたしは言った。
「40本、蝋燭を下さい」
**
こつこつと歩く。
最初のコメントを投稿しよう!