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かつて東日本に、経立(ふったち)と呼ばれる魔物がいたと伝えられている。
この経立とはサル、オオカミ、トリ、ヘビ等の生き物が、その寿命を遥かに越えて生きた場合に魔物に変化すると信じられていた。
今より少し昔、奥州の山奥でカヅミという名の若い男が暮らしていた。
カヅミは炭焼きを生業としていた。
この当時は同じように炭焼きをやる者が他にも多くいた。
その仲間達の間では、一つの決め事があったのだ。
山中の炭焼き小屋に泊まる場合、夜更けに小屋を出てはいけないという掟。
山は日が暮れると、ヒトの世界ではなくなる。
カミ、獣、魔物の所領となる。
そう信じられていた。
ある冬の事。
カヅミは例年のように山に入っていた。
その年はじいさまが病で床に臥せっていたため、カヅミは山小屋で一人だった。
年の瀬の事だ。
長く独りで山にいると妙な心持ちになってくる。
炭焼き小屋の地べたに敷かれた藁の上で、ごろんと横になって天井を見詰めていると様々の幻想が浮かんでは消える。
うとうとと、囲炉裏の火は消えかけようとしていた時。
「おうい、おうい・・・。」
誰かの呼ぶ声が聞こえたような気がしてカヅミは半身を起こした。
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