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山小屋の外の、茫漠と広がる夜の深淵からそれは呼ぶ。
おうい。おうい。おうい。
もはや聞き間違えでは無かった。
確かに何者かが呼んでいる。
カヅミは起き上がると小屋の戸を開けた。
おうい。おうい・・・。
どうも人間の、男の声らしい。
カヅミは声のする方へ歩み出した。
掟の事は頭からすっかり消えている。
その声は小屋から少し離れた崖の方から聞こえるのだ。
カヅミは白夜の中を駆けた。
崖の縁までくると、下を覗き込んだ。
おうい。おうい。おいう。ほうい。
間違いない。この崖の中頃から声がするのだ。
だがここからではその者の声は聞こえるものの、姿は見えない。
岩が突き出している部分の下から聞こえるようだ。
もしかすれば、仲間の誰かが崖を降りる途中で立ち往生しているのかもしれない。
そう思ったカヅミは小屋に取って返すと縄を持ち出した。
縄の片方を太い樹に括り、もう一方を自分の腰に巻くとカヅミは崖を下り始めた。
「すぐそっちに行く。動くでねえ。」
下に向かってそう呼びかけるが、下からはただ、おういおういおうい、と繰り返されるばかりだ。
カヅミは急いだ。
やがて声のするあたりまで来た。
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