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この岩の出っ張りの下だ。間違いない。
なおいっそう縄を握る手に力を込めるとカヅミはひと息に岩の下に降りた。
おうい、おうい、ほうい、おうい。
声は尚繰り返している。その暗がりの方に目を凝らした。
岩窪にそれはいた。
針のようにごうごうと生えた黒い体毛。
その巨体の真ん中に赤みがかった顔があった。
猿だ。
カヅミはすぐにそれと悟った。
人でないそれは無表情のまま口だけが繰り返し同じように動いていた。
おうい、おうい、おうい、おうい、おうい、おうい。
宙ぶらりんのまま、呆然としてカヅミはその様を見ていた。
やがてそれは突然、歯を剥き出して笑った。
いや、笑った様に見えただけかもしれない。
黒い巨体が飛び上がり、突然カヅミに抱きついた。
おうい、おうい、ほうい。
化け物はカヅミに顔を近づけ、同じ言を放つ。
幼子が初めて覚えた言葉を嬉々として繰り返すように。
凄まじい悪臭が鼻を突いた。
ついには重さに耐えきれず縄は千切れた。
宙に放り出される感覚に、カヅミは気を失った。
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