石川さん

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石川さん

 最後に501号室の石川さんと会ってからは、2ヶ月程経っていた。急に、隣から大きな音がした。慌てて501号室に行くと、何てことはない、引っ越しの最中だった。 「引っ越されるんですね。ありがとうございました。良かったら連絡先・・・」  私は、隣が石川さんではなくなるのが嫌だな、と思った。少し寂しかったので、連絡先を聞こうとした。しかし、振り返った石川さんを見て、私は一瞬声が出なくなった。  石川さんは、顔が真っ青で、2ヶ月前とは打って変わって痩せ細っていた。普段でもお洒落な服を着ていたが、出てきた石川さんはボロボロの服を着ていた。体のあちこちに掻きむしったような痕があり、いつも綺麗な髪もぼさぼさだった。何より恐かったのは、目が赤黒く血走っていた。 「い、石川さん・・・?どうかしたんですか?」 「あなた、霊感ある?」 「いえ、全くありません・・・」 「そう、良かったわね。私はね、あるのよ」  それだけ言うと、玄関のドアを閉めてしまった。しかし、再度ドアが開き、早口で言った。 「507号室に呪われてるのよ。やっぱり死んだわ、あそこの住人。借金苦で自殺よ。でもその人、帰ってきたいのよ。本当はここにずっと居たかったのよ。でも家賃が払えなかった。呪われてる!あなたも危ないわよ」  そして、石川さんは、危ない、危ない、と何度も言い、玄関のドアを閉めた。私は呆気に取られた。  それが、石川さんとの最後の会話になった。
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