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 その夜、私はひどい金縛りにあった。手も足も動かない。声も出ない。助けて、助けて、と思っても声が出ない。涙が止まらない。助けて。  夢の中で、私は中学生だった。ひどいイジメを受けていた。周りの同級生に罵られ、殴られ、ものすごい痣ができても誰も助けてくれなかった。そして、誰かが自分の首を締めた。その力はとてつもなく強かった。苦しい、苦しい、苦しい。  どれだけ時間が経っただろう。私は、全身汗だくだった。鏡を見ると、首が真っ赤になっていた。しかし、先程とは異なり、なんとか起き上がることが出来た。起きた原因は、会社からの電話だった。何度もかかってきていた。 「すみません・・・ちょっと電話ができなくて・・・金縛りで」 「はあ?何言ってんだよ」  出勤時間が過ぎていた。クビかな、と少し思った。 「お前、それより転勤が決まったぞ」  上司は思いがけない言葉を発した。その後も何か言っていたが、全く耳に入ってこなかった。 「ありがとうございます、ありがとうございます、ありがとうございます・・・」  私は何度も何度も言った。決して部署を異動したいわけではない。ただ、もう涙が止まらなかった。ここにはもう住みたくなかった。居たくなかった。怖かった。自分が自分では無くなる気がした。  私は、運が良かったのかもしれないが、中高生の時にイジメを受けたことはなかった。仲間外れなどは少しはあったが、他の友人が助けてくれたりした。また、霊感も無く、金縛りもそれまで1度も無かった。  その時、恐らくは、初めて自分の人生と周りの人々に感謝した。
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