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最後に
石川さんの言うことが正しければ、507号室の住人は、借金苦で自殺したという。それは中高生ではあまり考えられないので、PASMO定期券の名前と507号室の住人が同じ名前なのは、確実におかしなことだった。
今度こそ、きちんと話そうと交番へ行った。引っ越すため、これが最後になる。
「すみません、ちょっとお話ししたいことがありまして・・・」
いつもの交番に行った。あの警察官に話を聞いてもらえるかわからないが、今度は何としても聞いてもらおうと思った。
だが、あの警察官は居なかった。
「小林さんに話を聞いてもらっていたのです
が・・・」
実際は、話を聞いてもらえなかった、が正しいが、中に居た警察官にはそう話しかけた。だが、その警察官はとても悲しそうな顔をした。そして、しばらくして言った。
「小林は、先月亡くなりました」
「もしかして、サイトウアカリさんの事を調べていたのでは・・・」
「良くご存じですね。関係者の方ですか?」
私は、もう何も言えなかった。怖かった。そのまま、無言で立ち去った。
ふと、帰りに外から自分のマンションを見た。マンションにはシャッターが無いので、カーテンが有るか無いかで住んでいるのかがわかる。
5階でカーテンがかかっているのは502号室、つまり自分の部屋だけだった。他の6部屋は全て空室だった。5階の他の住人は、もう居なかった。5階には、いつからか自分しか居なかった。
その後、不動産会社に電話して、なぜ他の住人が居ないのか聞いたが、皆それぞれの事情で引っ越した、とのことだった。507号室のサイトウアカリさんのことも、何も教えてもらえなかった。ただ、大学生以上しか住めないマンションだった。
PASMO定期券の持ち主は、誰の知り合いだったのか。取りに来るのか。
『サイトウアカリ』という名前が、ただ、単純に同姓同名だったのか。
いつから住人は皆居ないのか、皆怖い思いはしたのか。本当に呪いなのか。
私は、一体誰の夢を見たのか。
知りたかったが、全ては謎のままだ。
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