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都会のマンション
私は、少し前まで東京23区内の、とあるマンションに住んでいた。名前は川口今日子、女性、25歳の会社員だ。
マンションの最寄りのA駅は、私鉄の急行も停車する駅で、乗降する人数もかなり多かった。駅の周辺は住人も多いが居酒屋も多いので、夜中も人通りが多くかなりうるさかった。田舎から出てきた私は、これが都会の喧騒か、と初めは引っ越したことを悔やんだ。だが、慣れると、周囲に常に誰かが居る方が気が楽になった。また、近くに交番があるので、本当に何かあれば駆け込めば良い、というのも安心感があった。
そのマンションは、A駅から徒歩5分くらいで、周辺にスーパーやコンビニが多数あり、とても便利な場所にあった。10階建ての鉄筋コンクリートマンションで築年数は20年。オートロック付き、2人住まい禁止、ペット禁止の単身者用マンションだ。
入居した際、自分が25歳女性の一人暮らしなので、近隣住人に挨拶するか相当迷った。だが、何かあった時の為に、隣にだけは挨拶をすることにした。
私の部屋は502号室。左隣の501号室は、40代くらいの会社員の女性だった。右隣の503号室は、男子大学生だった。二人ともインターホンを押し挨拶をすると、笑顔で会話をしてくれる、とても優しい方達だった。都会でも隣が良い人達で良かった、と私は胸を撫で下ろした。その後も、マンションのロビーやエレベーターで会えば挨拶を交わした。特に、501号室の40代会社員女性とは、会えば会話をするようになった。名前は石川さん、ということだった。
そのマンションでの生活は、至って普通であった。私は、会社員として働きながら、初めての東京ライフを満喫していた。だが、そのマンションには一つだけ気になることがあった。
それは、マンションの集合郵便受けの一つが、ポストに入りきらないほど郵便物やDM、支払い票が山のようにパンパンになっていることだった。郵便物を届ける方が、いつも大変そうに押し込んでいた。だが、私はそういったことを見たことが無かったので、住人の方がしばらく帰っていないのかな、とだけ思っていた。
その郵便受けの部屋番号は、507号室だった。
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