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連絡があったのは、高校時代の友達からだった。
その子は、私と翔也が仲のいいことを知っていた。
そして、翔也の彼女でもあった。「元」がつく方の彼女だけど。
まぁ、「元」がついた原因は、私にあるんだけど。よくある、女友達に嫉妬して喧嘩別れ、のパターンだ。
そんな友達は、高校卒業後も仲良くしてくれた。もちろん、私とも翔也とも。そして高校時代から、翔也のご両親とも仲が良かった。
だからこそ、翔也の両親に会ったことがない私にも、すぐに連絡が回ってきた。
あまり受け取りたくない連絡だったけど。
友達の泣きそうな声をきいて、慌てて病院に車を出した。
正直、病室に着くまでのことは、あまり覚えていない。ただ、その病院は、ちょうど私の看護学校に附属している病院だった。病棟も、病室も、なんの迷いもなくたどり着けたのは幸いだった。
個室に入り、初めて翔也の両親に会った。
今まで翔也の話の中でしか会えなかった両親は、想像より少し老けてた。でも、想像よりずっと、翔也と似ていた。
ベッドに、足早に近づく。
足は包帯でぐるぐるに巻かれて吊るされて。
病衣は手術後に着るものを身につけている。
チューブ類に点滴類。酸素マスク。心電図モニター。
典型的なスパゲッティ症候群だと、こんな時なのに冷静に思った。
きけば、飲酒運転だったらしい。
きいた瞬間、馬鹿だなと思った。
昔から、よく言えば楽観的、悪く言えば物事を全く考えない性格だった。
私といる時も、飲んだあとに車に乗ろうとしてた。制止しては2人で電車で帰った。終電がなくて、2時間半歩いて帰ったこともある。
でも、他の人と飲んでた時のことまで、私は知らないし口出しできない。止める人がいなきゃ、翔也が車に乗るのも想像出来る。
飲酒運転で、車道から外れて、電柱にぶつかった。
普通はここまで大事にならないが、あたりどころが悪かったらしい。
正直、明日どうなるかもわからない状態。このまま目が覚めないかもしれない、とのことだった。
涙ぐみながら、翔也のお母さんが教えてくれた。
翔也は、授業中に寝てる時と、同じ顔で寝ていた。
酸素マスクと汗の量が、授業中と違うことを無理矢理突きつけてるようだ。
私も、一応看護学を専攻している人間だ。
1人前でなくたって、この状態がいかに悪いかは、なんとなくわかる。
私は、翔也の両親に挨拶をして。
友達に、連絡をくれたお礼を言って。
病室をあとにした。
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