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「自意識過剰なんじゃないの。微塵も思わない」
髪の毛を人差し指に絡める、柔らかな声、僕と同じ色の瞳、何処をとっても可愛らしい。
「私と話すことは、たのしい?」
「ああ楽しくない。全く持って楽しくない無意味なものだ」
言葉だろうと、文字だろうと、君を殺すことしかできないのだから。
「ねぇ、君って」
白い細指が離れ、僕の片頬に触れた。
「何故、そんなに泣いているの?」
「は?」
本当に意味が解らなかった。とうの昔に涙なんて枯れ果てていたが、思わず目元に指をあてる。当然だが、そこには平然と乾いた肌があるだけ。
何を言っているんだ。そう返そうとした言葉を、遮られる。
「今日も、昨日も、一昨日もその更に前も。貴方はいつも泣いていたわ」
「そんなこと」
「ねぇ、明日。私は死んでしまうそうよ」
言葉が出なかった。口上句と同じように言葉を放つ彼女は、いつも通り泣き出しそうな顔で笑っている。
「今日も、昨日も、一昨日も其の更に前も。いつか消えてしまうなら、椿の花の様に一瞬で。ここに何も残らないように消えてしまいたいと思っていたわ。それが、一番の幸せだと思ったの」
彼女は、何を言っているんだ。僕は狼狽するしかない。まるで、僕の罰を知っている口振りで。
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