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もう誰にも知られたくなかったのに。
「そ、そんなこと、僕には関係ない」
「そう。だから、貴方に謝りたいの。泣かせてしまったことを。悲しませてしまったことを。貴方の優しさを裏切ってしまった事を」
誰も傷つけたくないから、わざと遠ざけていてくれた不器用な優しさに。と、少女は宣った。
「私が、死んでしまう前に」
明星が薄れ始めたばかりにも関わらず鐘が鳴り始めた。頭の中を反芻して、吐き気がする。気付けば僕はへたり込み、彼女が心配そうにのぞき込んできていた。その眼に、曇りはない。全て本当だと告げているのだと、根拠もなく悟った。
信じられなかった。信じたくなかった。信じたい自分もいた。
「……そんなに生き急いで、何になるんだ」
「最初から決まっていたことだもの」
「本当に死んでしまいたいと思っているわけ?」
「貴方は本当に優しくて、本当に酷い人」
少女は幼気に破顔した。僕は、馬鹿にするような顔しか出来なかった。彼女の言葉が本物なら、本当に、僕はどうしようもない、酷い奴だ。
「ねぇ。今日こそ言ってくれるかしら?」
そう言う彼女も、酷い奴だ。
結局、僕はどうしようもなく愚かでエゴイスト。こんな僕に罰が下されたのは、当然の報いだったのかもしれない。
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