孤独

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いつからだったか、母親の綺麗な目を好いた。僕も同じ目だったから。透き通った碧眼、絹のような髪糸、父親が妬くくらいにべったりだった。 『息子ばかりにかまけるとは、俺はもうどうでもいいのかい』 『張り合わなくてもいいじゃないですか。私の愛する夫はあなただけですよ』  そんな熱愛を生まれて数年にして目撃していた、まさに円満な家族。裕福とは言い難かったが、当たり前の日常を当たり前に過ごせる幸せな毎日だった。  とある日に、僕はいつもと同じ様に青い目を褒めた。好き好き、大好き。子供の拙く少ない語彙でひたすらに。今頃何を言っていたかなんて細かいところまで覚えていないが、母親が喜ぶ言葉を沢山言った。一生分の賞賛を送った。その目が、その目を持つ母親が、その目を授けてくれた母親が大好きだったから。父よりも慈しんでいると子供ながらに訴える為に。そして、愛されるように。  そうして、ありったけ祝福の言葉を受けた母親の目は、ゆっくりと凹凸が生まれ、次第に爛れ、水飴のように溶けていった。  金切り声が劈いた。それが母親の物だと頭が理解したのは、歪に蠢く体が倒れ伏し、よく梳き遊んでいた黄金の髪が乱雑に叩きつけられた後だった。     
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