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まあるい宝石が、大きく見開かれたのをよく覚えている。その光は、今にも零れ落ちてしまいそうなほど、潤んでいたから。あぁ、やっぱりこうなってしまうんだ。僕は、頭の片隅で肩を落とした。
「あら、ごめんなさい。ここにはおじいさんが一人きりだと聞いていたから。宵刻にお邪魔させて頂いているの」
霙のように眉を垂れ下げ、申し訳なさそうに琥珀の脇髪を指先で掻き上げる。そんな動作すら、つい目で追いかけてしまう。なんて未練がましく汚いのだろう。こんな僕が、どうしてまた触れ合えるなんて微塵とも思えてしまったのだろうか。
そうして、僕は藍色を眺めながら背を向けた。
「人の家に夜な夜な入るとか、不気味だ。やめろよ、視界に入るな。白が目に痛い」
独りよがりに毒づいて、暗闇を後にした。彼女がどんな表情か知りたくも無いけれど、大体わかっているつもりだったから。
扉を閉める際、ちらりと覗き見た天使の色は、何色も無くこちらを見ているようで気まずくなり、あっさりと閉めてしまった。これでまた『ひとり』になれる。
其れなのに、その翌日から彼女は毎晩のように僕の仮家に現れた。
まるで僕が吐き出す毒に、甘んじて浸る、狂気染みた娯楽の様に。
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