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僕は顔を背けた。傍らに野生化しかける花々を眺めるふりをして、何処も見ていなかった。何処を見ても、それらは僕にとっての毒。虚しさだけが塵積もる。いっそ切り落としてしまいたい。そんな事が出来ないとわかっていながら、願わずにはいられない。
どこまでも純粋に美麗で、そこに存在するだけで華を持つとしても。僕にだけは応えることができないからこそ、触れたくない。触れてはいけない。
「貴方は、今日も酷い人」
見なければいいのに、潤んだ声に振り返った。ダイヤモンドが溢れ出しては、煉瓦敷きに砕かれている。僕の毒で、宝石箱が溶けていく。
また。幾度も幾度も。遥か前に両手の指では数えられなくなった。無防備無垢な少女に、ナイフを振り翳さして。僕はどれほど真っ赤に染まってしまったのだろう。許されるべくも無い。許されない。
「泣くなよ」
傷付くのなら何処かへ行ってしまえばいい、僕から離れてしまえばいい。漏れるの無責任な冒涜。僕は、彼女の毒にしかなれないんだ。
それでも彼女は、泣いたまま笑った。心臓に突き刺されながらも、崩れそうな微笑みで。
「ねぇ」
応えなかった。
「ねぇ」
応えたとして、それは同じ場所にナイフを突き刺すだけだから。
「ねぇ」
少女は小さく僕の裾を引いた。振りほどけば良いものを、僕はだらしなく力を抜いただけにした。その上、烏滸がましくも返してしまった。
「……何」
「私って、きれい?」
「全く」
綺麗でなくて何という。
「私って、かわいい?」
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