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1.幽霊
その噂を耳にしたのは、怪談には少し早い6月のじめじめした頃だった。
私は何をするわけじゃなく、ぼんやりとソファーに寄りかかって何もない空間を眺めていて、だからこそ何でもない外の会話が耳に入ってきたのだろう。
──背の高い男の幽霊見たんだって。
──またいつもの噂話だろ?お前らそういう話好きだもんな。
──違うよ。斎藤も見たって言ってたし。
──ますます怪しいじゃねーか。
高校生のカップルだろうか。
その若さ故の特権を活かし、朝からきゃっきゃっと騒ぎ立てる。
耳障り、というわけでもなかったのだが、私はおもむろに外の気配を遮断しようと立ち上がり、窓辺に向かう。
その時吸い込んだ朝の街の空気は、雨を予感させる湿気を孕んでいた。
これ以上じめじめするのはごめんだと、窓を閉めてカーテンを引いた。
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