3.麻雛

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 リビングに戻ってローテーブルに牛乳を置き、顎でそれを勧める。  麻雛はそれに手をつけようともせず、真っ直ぐに私を見て、口を開いた。 「好きです」 「……は?」 「夏希さんの事が好きです」 「……まぁ、そうだからこんな事してるんだろうけどね」 「本気なんです」 「『まぁ、嬉しいわ』……とでも言うと思う? どこの世界にこんな時間に部屋に侵入されて喜ぶ女がいるのよ」 「そう……ですけど」 「それにあんた、私の事何も知らないでしょ」 「あなたは夏希さんです。……それ以外はこれから知ればいい事です」 「……何それ」  私はプルタブを起こそうと缶を掴んだ。  それは思いの外冷たく、私が麻雛に対して若干ムキになっていると気付く。  一口飲んで、体内に冷気を取り込む。  比例するように頭の中が醒めていく。 「夏希さんだって、そんな事言いながら、俺が来る事ちょっとは予測してたんじゃないですか?」 「それは何の冗談?根拠のない自惚れは可愛くないよ」 「窓……開いてました」  麻雛はふと目線を逸らし、外の方を見やる。  少し笑ってるような気がして、無性に腹が立った。  勘違い甚だしい。  無知蒙昧にも程がある。 「バカな事言わないで。私があなたを待っていたとでも言いたいの?」 「だってあれだけ幽霊の話したのに戸締まりしないなんて」  麻雛もムキになって、くだらない事を宣う。 「逆よ。話を聞いてからずっと窓の鍵は開けっ放し」 「……え?」 「さっき、私の事知りたいみたいな事言ってたよね……教えてあげる」  麻雛にとっては意外な展開だったのか、目を丸くする麻雛に、私はゆっくりと口を開いた。
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