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「……受け止めます」
ぽつん、と麻雛は口にした。
誰から誰へと贈られるといった種類の言葉ではなく、ただこの空間に漂わせるように、言った。
「何を?」
「今の夏希さんも、今までの夏希さんも、これからの夏希さんも」
今度は、力強く私を見据えて言い放った。
私はほんの少しだけ、可笑しくなった。
「若いっていうより、子供だね」
「夏希さんが望むなら、すぐに大人になります」
「こんな空っぽの私の、どこがそんなにいいの?」
「大切な人を失って、ぽっかり空いてしまった穴を俺で埋めてみせます」
「眞琴さんの代わりになるつもり?」
「いいえ、俺は俺です。俺なりに夏希さんの心を満たしてみせます」
麻雛のこのエネルギーの源。
それは若さ故の盲信や意地、陶酔の類以外何物でもない。
だがしかしそれらは、明らかに私が完全に失ってしまったものだった。
これが、未来というものの体現なのかもしれない。
麻雛は、そんな未来に私を連れ出そうと、熱っぽく語り続けた。
あの人を失ってから、どこかの誰かに言われたありふれた言葉たちを生み出し続けた。
麻雛の声に急かされるように、時計の針は進む。
それでも麻雛の口は止まる事を知らない何かの機械のように、リズムを切らさず動き続ける。
時が流れる。
私の中で止まっていた針が、軋みながらゆっくりと動き始める。
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