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「でも、夏希さんが幽霊の話信じるなんて意外ですね」
しかし、一瞬にして表情を明るくすると、私の何を知った気でいるのか、現実私は幽霊話を信じる信じないの話など一度としてしていないのだが、麻雛は感動的に言う。
私はただ、空を見つめた。
雨雲は少し、その鎧を脱いだようだった。
しばらくの沈黙のあと、麻雛は湿った衣服を引っ張りながら、立ち去る挙動をみせた。
さすがに雨が弱まってきた以上居座る理由もない事くらいはわかるらしい。
「それじゃ、また。雨宿りどうもありがとうございました」
『また』という言葉に疑問を感じつつも、私は空になった4本目を掲げる事で返事とした。
走り去っていく後ろ姿を見ながら、ぼんやりと“戸締まりをしておかないと侵入してくる存在”について考えた。
何らかの運動部なのだろう。
麻雛はそれからも毎日のように家の前を走った。
家の前に着くたびに速度を緩めてこちらを伺っているようだったが、私は一度としてカーテンを開かなかった。
麻雛の『また』という言葉とは裏腹に、一度も会話を交わす事なく、8月、麻雛達の夏休みは終わった。
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