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3.麻雛
9月。
外からは未だ蝉の鳴き声が届き、やはり暦でしか時間の経過を認識する事はできない。
麻雛は相も変わらず美央梨とやらと登校しているらしく、わざとらしさを帯びた声で何かをアピールしながら家の前を通る。
そんな、ある日。
──なあ、夏休み前に言ってた幽霊なんだけどさ。
──え~? 幽霊~?
──あったじゃん、ほら、斎藤も見たとか言ってたやつ。
──あー、あったね~。忘れ過ぎててもはや懐かしいよ~。
──ついにこの街でも目撃されたらしいじゃん。
──嘘くさ~。
──なんだよ、むしろお前が信じろ的に話してたじゃねーかよ。
──そだっけ~?
少しずつ小さくなっていく声。
カーテンの端からちらりと外を見やると、ちょうど麻雛が振り返るところだった。
ただ、それが私を精一杯意識した目を向けていても、視線がかち合う事はなかった。
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