二十二日

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八年前の三月二十二日やった、 僕とお父さんとお姉ちゃんが 海の見えるの借家へやって来たのは。 お父さんの商売がひっくり返って、 ついでにお母さんまでひっくり返って、 僅かな家財道具で僕らはやって来た。 家に入るなりお父さんは自分の部屋で お酒を飲み始めた。 僕とお姉ちゃんは浜辺へ行った。 石段に腰掛けて・・・・ 僕の右とお姉ちゃんの左、 あったかいのはそこだけ。 ビュッービュッー風の吹く浜辺。 お姉ちゃんは10分黙ってたけど 「よし!」と立ち上がり 「いくで!」と笑った。 その夜からお姉ちゃんは 書き物をしていた。 ツテを頼って『レディコミの原作』 とかいう仕事を請け負った。 お母さんの病院代やら いろいろ大変やから。 お姉ちゃんは元々大学院というトコで 勉強してたんやけど 「悠長なことしてられへん」 とやめてしもた。 夕方からは塾で英語を教えて 帰ってきたら『レディコミ』、 書いて書いて書きまくって 明け方に僕と浜辺、 ぶらぶら歩いて石段で10分だけ。 僕の右とお姉ちゃんの左、 じっともたれ合って・・・。
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