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おはよう
ハッと。目が覚めた。
目の前に広がるのは、懐かしい、ジムの天井だった。
練習の時、限界を迎えると、仰向けになって何度もこの天井を見る羽目になった。
「おっ。目が覚めたな」
横から聞こえてきたのは、親友の声だった。
金髪を逆立てた痩せぎすの男だった。
痩せていると言っても、それは、脂肪が少ないということでしかない。
浮き出た筋肉は、華奢とは正反対の印象を彼に与えている。
「トラジ?」
先ほど殴り倒した親友が、コーナーポストに寄りかかって、こちらを見ている。
ゆっくりと、体を起こすと、状況が見えてきた。
タツキは今、所属しているボクシングジムのリング中央で、大の字に倒れている。
サイレンの音は聞こえない。
時計を見ると、午後5時を過ぎて、午後5時半だった。
殴り倒したはずの親友が、今も立っている。
何度もループを繰り返したが、タツキは初めて経験する状況だった。
だが、この状況自体を推測することはできる。
トラジが立っていて、タツキが倒れている。
直前まで二人はボクシングのリングで試合をしていた。
なら、話は単純だ。
「俺が、負けた。の……か?」
そのタツキの言葉に、コーナーポストに寄りかかっていたトラジが、ニンマリ笑った。
トラの名前同様、獲物を捕まえた肉食獣の笑みだった。
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