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「その通り。つまり、お前は約束を守らないといけない。
引退を撤回して、俺と一緒にまたチャンピオンを目指すんだ」
「いや、待ってくれ。
俺は何回もループを繰り返してきたんだ。
お前に、あのフックを避けることは不可能だ」
トラジが、よくぞ聞いてくれたと、頷いた。
「そうだよ。ループしてるのは、こっちも同じ。
何回やっても、来るとわかってても、俺にあのフックを避けることはできない」
妙に芝居がかった言い方に、タツキは眉を顰める。
「でもな。何度も同じパンチを食らえば、ある程度なれるんだよ。衝撃にな」
完全な不意打ちと、来るとわかっている攻撃。
衝撃が大きいのは、確かに前者だ。
「待て。俺が何回お前を殴り倒してきたと思ってるんだ。
なれるなら、もっと前にその兆候があったはずだ」
タツキはこれまで、ループするたびに、トラジを殴り倒してきた。
それは、ループの開始時間が、トラジのKO時間と重なってしまったという悲劇からくる偶然だ。
タツキが殴り、トラジが倒れる。
そのループが変わったことは、今まで一度もない。
それどころか。トラジは毎回気絶している。
慣れる。慣れない。ということで、トラジに与えるダメージが減っていたとするなら、トラジはもっと前に、タツキを倒せていたはずだ。
前回のループですら、トラジはピクリとも動かなかった。
ループが始まったころなど、殺してしまったのではないかと心配して、タツキは倒れたトラジを介抱していたのだ。
その時の経験から言える。
最後のタツキの一撃は、慣れるとか、慣れないという問題ではない。
受ければ、必ず意識を刈り取る。
そういう類の、まさに、必殺の一撃なのだ。
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