おはよう

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「兆候ね。あったぜ」 トラジはあっさりと言った。 「数回に一回だけだけどな。倒されても、かすかに意識がある。  そういうことが、あった。  ループを重ねるごとに、そういったことが、増えていった。  それが、今回の大・逆・転!につながったんだよ」 トラジは続ける。 「途中、お前にこのことが、ばれないようにするのに、苦労したんだぜ。  殴り返せるほど、衝撃になれてない頃は、わざと倒れたりもしたんだ」 トラジがコーナーポストから離れて、ゆっくりと、タツキに近づいてくる。 「今日。お前を倒す時のためにな」 そして、グローブをはめたまま手を、タツキに差し伸べた。 「つまんねえ話はもういいだろ。いい加減あきらめろ。  俺が勝ったんだから、約束は守ってもらうぜ」 自信満々な態度でありながら、トラジはどこか落ち着かない様子だった。 土壇場で、タツキが約束を反故にする可能性を恐れているのかもしれない。 そもそも、最初の約束のチャンピオンなんて、今のループしている世界では全く無意味な称号だ。 なによりも、チャンピオンに挑むためのタイトルマッチ自体が、開催されない。 引退だって、同じ一日を何度も繰り返す世界で、何の意味があるのか。 足踏みだけを強制されるこの世界で、引かず退かないところで、一日たてば、元の木阿弥だ。 タツキが約束を律義に守る必要はない。 だけどそれは、約束を破る必要もないことを示していた。 タツキは、トラジの手をとった。 二人の間で久しぶりに、拳以外のものが交わされた時だった。
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