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夢の中の日々
その日は、タツキにとって、とても懐かしい日々だった。
朝早くからロードワークを行い、ジムで汗をかく。
昔に戻ったかのような、世界王者を目指していた、あの日々だった。
タツキ自身も戻りたいと思っていて日々が、そこにあった。
けれど、それは、偽りだ。
どうやっても、戻らないものがある。
トレーニングを終え、ループが始まる午後5時まで後、30分だった。
4時30分。
タツキは、トラジと共に、ジムのリングの脇でささやかな晩酌を行っていた。
ループの関係上、一日の終わりが午後5時なのだ。
それに、ループすれば、二日酔いに悩まされる心配がないというメリットもある。
「あと、30分でまた、あの一撃を食らうわけか」
トラジが、楽しそうにピーナッツをかじる。
タツキは、無言だった。
「けどよ。今度は油断すんなよ。今日みたいに殴り返してやるからな」
いたずらっぽくシャドーボクシングを行うトラジ。
タツキは、そのトラジを見て、一言だけつぶやく。
「忘却薬」
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