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「はぁ……。置田のおっさんと小野木さん。泣いてたなあ」
俺は試合会場から少し離れた公園のベンチに座り、買ったばかりのホットコーヒーを飲んだ。
口の中が切れているためひどく沁みるが、それが逆に沈んだ心の俺の救いとなった。
結局あの後、俺と虎太郎はお互いボロボロになりながらの泥仕合を繰り広げ、試合の行方は判定へ持ち込んだ。
結果、引き分けでチャンピオンの防衛が決定した。
俺はもう一度息を吐く。年末が近い冬真っ只中のため、口から白い煙がもくもくと立ち上った。
ふと、人の気配を感じ前方へ目を向けると、死闘を演じた相手、虎太郎が大きなバッグを肩からかけた状態で立っていた。
俺は「よっす」と片手をあげると、男は気まずそうな顔をしながら近づいてきた。
「おめでとう、チャンピオン。お前、マジで強かったわ。完敗だ」
「い、いえ……。多分次やったらサウスポー対策されて、負けますよ、俺」
生意気にも謙遜する糞チャンピオンの脛を軽く蹴り上げた。虎太郎は苦笑する。
「でも、俺、思ったっす。ベルト奪われるなら、東島先輩がいいって。だから俺!」
そう言うと、目の前の男は仰々しく天を見据えた。
「先輩がリベンジにくる日を、ずっと待ってるっす!」
俺は、一人熱くなっている男に背を向け、歩き出した。
「んじゃ、その時まで日本一の座、暖めといてくれや」
俺はそう言うと、次なる目標ができたことに少しの喜びを感じながら、帰路につくのであった。
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