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……くくく、虎太郎よ、お前は昔から変わってねえなあ。
俺の右ストレートが恐いって言ってたよなあ。本当、あの頃のままだ。
人の恐怖心を煽るとか、汚ねえと思うか?
だがな、俺もなりふり構ってられねえんだ。それほどまでに、お前が強くなっちまったからな。
認めるよ。今のお前は俺よりも遥かに強い。
――だから。偉大なるチャンピオンへ、俺のとっておきをプレゼントするぜ。
勿論、受け取ってくれるよなあ……?
追い詰められた虎太郎は、明らかに冷静さを失っている。
俺が右拳ではなく、軽い左ジャブを繰り出すだけで必要以上にガードを上げ、亀のように閉じこもっている。
まだだ、お前が精彩を欠いたときに移す行動。俺はそれを待っているのだ。
ひたすらに、待つ、待つ、待つ。
左ジャブで牽制しつつ、俺は不意に右拳をぴくりと震わせた。
その瞬間、相手の鉄壁のガードは開かれた。
虎太郎は左腕を大きく振りかぶっている。
恐らく全体重が乗っているであろう、左ストレートが飛んでくる。
そう、俺が待ちわびた瞬間だ。
俺はその左ストレートより極寸分速く、右ストレートを上から被せた。
クロスカウンターだ。足が動かぬ、体力もろくに残っていない。
そんな状態で唯一逆転の芽があるとすれば、己のパンチと、相手のパンチ分の衝撃を上乗せさせたカウンターパンチしかあり得ない。
虎太郎はパニックになった時、大振りになる癖がある。そこを突いたのだ。
俺のストレートが相手の顔へ到達する。
左頬の肉を全て穿つような、実に嫌な感触が拳に伝わる。
だが、それでも。
俺はこの拳を振りぬかなければならない。
俺は持てる力のすべてを出し切り、右ストレートをぶち抜いた。
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