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「東島選手、前の試合が終わりましたので、入場の準備をお願いします」
係の男が、控室のドアを開け放ちながら大声でそう告げた。
俺は瞑っていた目をゆっくりと開く。置田のおっさん、小野木さんから張り詰めた空気が伝わってくる。
おいおい、試合をするのは俺だぜ? あんた達は、俺が相手をマットに沈めるその瞬間まで、悠々とした気持ちで見守ってくれればいいだけなんだ。
椅子から立ち上がり、グローブのつけた両手をだらんと下げ、軽くステップを踏む。
地に足がついているのを、重点的に確認する。
「竜也! こっち来いや!」
振り返ると、置田のおっさんと、小野木さん含めた複数人のトレーナーたちが円陣を組んでいた。
「あいよ」と軽く返事をし、それに混ざる。俺の肩を抱いたおっさんが息を吸い込み、そして、思い切り咆哮した。
「チャンピオンの座ぁ! 絶対奪い取ったるでぇ!」
「しゃあ!!」
野獣のようなおっさんの雄叫びに負けじと、炸裂音のような声でそれに応える。
控え室全体が、びりびりと震えた。
程なくして出撃準備を終えた俺たちは、各々の想い、願いを胸に、部屋を後にした。
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