日本ライト級タイトルマッチ

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「ただ今より、日本ライト級タイトルマッチ十回戦を行います!」  リングアナウンサーがマイク越しにそう宣言すると、会場はあふれんばかりの大喝采に包まれた。観客の声、拍手などが発生させる音の振動が、リングの床を大きく揺らした。  俺はその揺れのリズムに合わせて、軽く足踏みをした。 そうすると、俺自身がリング全体を震わせているかのような錯覚に陥り、楽しくなってくるからだ。気持ちが高揚してくるのさ。  続けて、チャンピオンの選手紹介がされる。 それが終わると、俺の紹介だ。 「青コーナー。挑戦者、日本ランキング一位、百三十五ポンド、置田ジム所属。東島竜也ぁ!」  俺は右拳を天に突き上げた。観客からの拍手が心地よい。 ……チャンピオンの紹介の時より拍手が小さい気がするが、まあそれはいいだろう。  レフェリーが俺と対戦相手をリング中央に呼びよせた。 お互い向かい合ってルール説明を受ける。  俺は真正面にいる人間と目を合わさなかった。それでも一瞬だけ相手に目を向けると、チャンピオンの目は虚空を彷徨っていた。 ……そうだよな、気持ちは分かるぜ。今からぶっ飛ばす相手の顔なんざ、見ても面白くないからな。  それにだ。俺はこいつの顔を今更見つめるまでもねえ。だってこいつは――。  説明が終わると、俺は青コーナーへと戻っていく。セコンドである置田のおっさんが待ち構えており、最後のアドバイスを送る。 「ええか? 序盤は様子見や。派手に大きなパンチはぶっ放さんといて、左ジャブで牽制するんや」 「分かった分かった。おっさん顔近い、息臭い。胃が痛んでるんじゃないか?」 「なっ! おまっ!」  俺はそう言いながら、おっさんの肩を押してリング外へ追いやった。おっさんは不服そうであったが、もうすぐ試合開始のゴングが鳴るのだ、審判に怒られちまうぜ。  会場全体のボルテージが上がっていく。観客からは頑張れー、だの負けるなーなどといった声があがっているが、直にそれも耳に入らなくなるであろう。  なぜなら俺と、赤コーナーにいる日本最強の男との二人だけの世界に入ってしまうからだ。  俺は目の前の青いコーナークッションを、右拳で軽く叩く。 と、同時に第一ラウンド開始のゴングが空間に轟いた。  ――さあ、ショータイムの始まりだ。
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