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気が付くと、俺は立ち上がっていた。立ち上がるまでの経緯はまるで記憶にない。
審判が俺の目を深く見つめ、「まだやれるか?」と声をかける。
……おいおい、レフェリーのおっちゃんよ、そんなに見つめないでくれよ、照れちまうからよ。
それによお、こんなところで終わるわけにはいかねえんだ。俺の命令通り、ちゃんと首を洗って待っててくれた可愛い後輩が目の前にいるんだからよ。
そうだろう!? 虎太郎! てめえの渾身のパンチ、めっちゃ効いたぜ。
くく、大学時代俺がいじめてた仕返しってか? なあ、おい……。
俺は審判に「やれるぜ」と宣言する。
このまま続けるか迷っていたようだが、審判はやがて試合続行の意を表した。
――さあて、反撃の時間だ。
虎太郎が一気に距離を詰めてきた。当たり前だ。今の俺は、少し押せば倒れるほどのグロッキー状態なのは、火を見るよりも明らかだ。
俺は右腕を思い切り振りかぶると、渾身の力を込めて相手へ叩きつけた。
右ストレートとは決して呼べぬ、ただ振り下ろすだけの暴力。
当然、そんな見え透いたパンチは顔面を捉えることはなく、虎太郎の鉄壁により阻まれている。
だが、それを繰り返す。それをしている間にも、虎太郎の右ジャブが俺にヒットしているのだが、構うものか。元より、俺の足はほとんど動かねえんだ、これに賭けるしかねえ。
何度目か分からぬ、またしても大げさに振りかぶる動作を見せる。
じりり……。
虎太郎が、後ずさる。
俺は相手が後退した歩幅分、前進した。
振りかぶり、打ち下ろす。相手は後ろへ後ろへ……。そして。
チャンピオンがついに、コーナーを背負った。
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