いちごミルクの墓

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◆ ◆ ◆ 「もう大丈夫だって、いい加減離れろよ」  狭い畳の部屋で安達はボヤいた。  安達の体調を心配した伊豆原が、彼を自宅まで送り、本当にあの変なのは出て行ったのか?と、後ろから抱き締めて座りずっと見張っているのが現状である。 「本当に、もう何も居ない?」 「居ないよ。何も感じない」  いつもの印の描かれた、いちごミルクを飲みながら安達が答える。それでも伊豆原は彼から離れようとしなかった。 「じゃあさ、ハル」 「ん?」 「ハル、俺のこと、どう思ってるの?」 「なっ、え? いや、それは……分かんねぇよ。俺、男だし……、中学ん時に女子にフラれて傷付いたこともある、し……」 「なんかイラっとした」  不機嫌な声で後ろから伊豆原が安達の肩に顎を置いた。ビクッと安達の身体が小さく跳ねる。 「は?」 「俺のこと聞いたのに他の子のこと考えるから」 「はあ? 皆から好かれてる王子に言われたくねぇよ! このタラシ! お前も悪霊退散されてしまえ!」  身体を捻って数珠を取り出し、安達は伊豆原に向けた。その腕を掴んで立ち上がり、伊豆原が安達の身体を抱き寄せる。 「それってヤキモチ? 俺は今、ハルのことで頭がいっぱいなんだけど」 「知らねぇってば」  ──学校の王子が自分のことを好きになるわけないと思っていた。全て霊の仕業だと思っていた。この気持ちも霊の仕業であれば良いのに。 「キスして」  伊豆原の顔がグイッと安達の顔に近付く。 「な、んで? 殴ったことは謝っただろ? 俺を辱めるための罰ゲームとかそんな──」 「違う、確かめたいから」  ──ハルの気持ちを。 「っ、くそ……」  もう答えなんて分かっていた。霊を拒むそのキスはいちごミルクと血の味がした。
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