優しさは日だまりの様に

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優しさは日だまりの様に

  小鳥の声と春の色。  届くのは空のしみ透るような青さと、温かな日だまり。 ふと、気付いたの。 朝いちばんの何気ない鳥の、さえずりさえ心地よく響く。  日常の中に当たり前の幸せがある。 私達はそれらの物に、生かされている。 待ちゆく人も、働く人も、学校や日々の生活に追われる人も、 みんな、それぞれにそれぞれの人生を生きている。 自分だけの花を咲かす。 私の花は何色?どんな花? 森の(こずえ)、樹々の色?青い海と空の色。 それとも優しい春の花の色? あなたは私を見て、お母様の形見のスーツをくれた。 「嘘みたい、サイズもぴったり」  可愛い人だったんだろうな。可愛いデザインの夏物のツーピース。  キュロットパンツが可愛い。  藤色のその服にあなたは「藤色、似合うな」と笑う。 「あはっ、同じ。私の母も藤色の着物を持ってるの」   今は形見になった母の着物。 「一度、着てみてよ」 「ダメ・・着方がわからない」 「じゃあ、結婚式に着ろよ。いや、ウエディングドレスはやっぱ  着てほしいな」 それって、いつになる話?私は知っている。  彼は私の指輪を買って、貯金が無いんですって。 兄に聞いた。 「あいつは俺と一緒で本の虫だ、ほっとくと食費より本に消えるぞ」 「お兄ちゃんが、それでしょう」  そうそう、兄はバイト代の大半が、本に消える。 彼は言う。「知ってるか。俺の食費よりミーコの餌と病院代の方が高いんだ」 そのくせ、コーヒー代はケチらない。彼はコーヒーを水代わりに飲む。 「コーヒー、入れて」 そういいつつ、老猫のミーコと遊んでいる。 ()でて「ミーコ、お前は美猫だ。お前は賢い」と、それこそ 猫かわいがり。  そして「長生きしろよ」と。 私にも「長生きしろよ」と、あなたは言った。  私がガンだから。 「あれ、お前はコーヒーいれないの?」 「今、いれてるよ」 暖かいコーヒーの香り。あなたはいつも自分より他人を気遣(きづか)う。  誰にでも、優しい人だった。 だからみんな、あなたを好きになるのね。 あなたの周りはいつも暖かい、入れたてのコーヒーの温もりの様に。 まるで冬の陽だまりの様に。優しい空気に包まれてる。 春の花霞(はながすみ)の花びらの様に。  桜と一緒に、()ってしまった人。  桜吹雪の様に、散った人。
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