映画

3/8
前へ
/134ページ
次へ
 私は、涙が止まらない目を隠して答えた。 旅行に行きたいんだってことを。  たぶん、止められるだろうなど思ってた。  突然に両肩を掴まれママをみた。  ママもまた目に涙を溜めていた。 「思いっきり生きなさい。やりたいことをしなさい。後悔の無いように。」  嬉しかった……でも次の言葉が強く胸に刺さった……。  そんな体に産んでしまってごめんなさいって、ママ、力になれなくてごめんなさいって……。  私こそ何も出来ないのに……。  だから私は、最後までママの言う通り思いっきり生きようと思った。  そして、私はゴールデンウィークの小旅行に参加して、夏休み始めの北海道小樽旅行にも参加した。  しかし、やはり無理があった。 北海道旅行から帰った私は自宅で倒れ、夏休み中、入院。  そして、余命宣告を受けた。 * * * * *  そして、秋になって、ゆうくんから告白を受けた。  彼の誕生日、十月二十五日のことだった。  彼とは、家の方向が一緒で、駅も二駅離れているだけだった。  ガタンゴトンとお決まりのリズムで走る帰りの電車。町の家々の陰に、照れ隠れしようとする太陽に車内をオレンジ色に染め上げられ、心から温かい。  私は彼にささやかな、でも心のこもった手作りのクッキーをプレゼントした。  夕日に染まった彼の笑顔は、まぶしいくらい明るく見えた。 それだけでも……うれしかった。 …………。 「出来れば、これからずっと僕の誕生日を祝って欲しい。」  唐突だったものだから、最初はその言葉の意味を深く理解出来ていなかった。  とぼけた顔して「うん」と答えた私に、彼は困った顔を向けた。  私は再度「うん?」とニュアンスを変えて繰り返した。  いまだに心地良いリズムを刻む電車。ポカポカと温かい車内。誰もいない車内。気が付けば私達二人だけの車内。  彼が次の言葉を発する前に、その言葉の意味に気付き、彼を見上げる。  彼は深呼吸をし、そして私に真剣な眼差しを向けた。  透き通るような琥珀色の瞳に一筋のオレンジ色の光が突き抜ける。  綺麗なその瞳に私が映っていた。私が住み着いてしまったみたいに。  意味がわかったのに言葉が出せず、期待と胸の鼓動を高めて顔を赤らめる私……。 「好きなんだ、僕と付き合って欲しい。」 とても嬉しかった。
/134ページ

最初のコメントを投稿しよう!

68人が本棚に入れています
本棚に追加