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私は、涙が止まらない目を隠して答えた。
旅行に行きたいんだってことを。
たぶん、止められるだろうなど思ってた。
突然に両肩を掴まれママをみた。
ママもまた目に涙を溜めていた。
「思いっきり生きなさい。やりたいことをしなさい。後悔の無いように。」
嬉しかった……でも次の言葉が強く胸に刺さった……。
そんな体に産んでしまってごめんなさいって、ママ、力になれなくてごめんなさいって……。
私こそ何も出来ないのに……。
だから私は、最後までママの言う通り思いっきり生きようと思った。
そして、私はゴールデンウィークの小旅行に参加して、夏休み始めの北海道小樽旅行にも参加した。
しかし、やはり無理があった。
北海道旅行から帰った私は自宅で倒れ、夏休み中、入院。
そして、余命宣告を受けた。
* * * * *
そして、秋になって、ゆうくんから告白を受けた。
彼の誕生日、十月二十五日のことだった。
彼とは、家の方向が一緒で、駅も二駅離れているだけだった。
ガタンゴトンとお決まりのリズムで走る帰りの電車。町の家々の陰に、照れ隠れしようとする太陽に車内をオレンジ色に染め上げられ、心から温かい。
私は彼にささやかな、でも心のこもった手作りのクッキーをプレゼントした。
夕日に染まった彼の笑顔は、まぶしいくらい明るく見えた。
それだけでも……うれしかった。
…………。
「出来れば、これからずっと僕の誕生日を祝って欲しい。」
唐突だったものだから、最初はその言葉の意味を深く理解出来ていなかった。
とぼけた顔して「うん」と答えた私に、彼は困った顔を向けた。
私は再度「うん?」とニュアンスを変えて繰り返した。
いまだに心地良いリズムを刻む電車。ポカポカと温かい車内。誰もいない車内。気が付けば私達二人だけの車内。
彼が次の言葉を発する前に、その言葉の意味に気付き、彼を見上げる。
彼は深呼吸をし、そして私に真剣な眼差しを向けた。
透き通るような琥珀色の瞳に一筋のオレンジ色の光が突き抜ける。
綺麗なその瞳に私が映っていた。私が住み着いてしまったみたいに。
意味がわかったのに言葉が出せず、期待と胸の鼓動を高めて顔を赤らめる私……。
「好きなんだ、僕と付き合って欲しい。」
とても嬉しかった。
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