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ある十五夜の事。
彼は、満月に誘われるように、夜だと言うのに、あの丘へとやって来ていた。
「月が綺麗だ」と呟く彼に、月から一筋の光が降り立ち彼を包んだ。
奇妙な事であるが彼は全く動じていない。
それどころか受け入れているような感じさえした。
そして、彼の目が満月に向け大きく見開いた。
まるで、その瞳に月を呑み込もうとするかのように、彼は月を見上げて一筋の涙を溢した。
そう、彼の記憶が戻ったのだ。
「あの日あの時、手を離したのは僕の方だ……」
月夜を遮るように袖で涙を拭う。
「今さら後悔したって仕方ない」と帰ろうとしたそのときだった。
彼女が目の前に現れたのは……。
「ずっとずっと会いたかった。」
抱き合う二人、ここから二人の同棲生活が始まった。
淡々と流れる幸せな日々、誰が見ても心が温まる幸せな日々……。
しかし、長くは続かなかった。
一年もすると彼女は病に倒れてしまった。
月で育った彼女は、地球の空気が合わなくなっていた。
ある日、彼はこんな提案をした。
「あの丘へ行き薬を貰おうと、もしダメなら君を帰すよ」
彼女は、泣きながら反対した。
あそこに行けばもう帰るしかなくなってしまうと。
そんな彼女を彼は「君が生きていてくれれば幸せだ」と、彼もまた涙を流し優しい笑顔でなだめた。
満月が登った夜。
彼らはあの丘へやって来た 。
彼は彼女の体を気遣い、小さなテントを張って彼女を膝に抱えて座った大切に温めながら。
そして、彼女は目をつぶり、月に祈った。
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